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「眠れる森の美女」あらすじと見どころ解説 <事務局>

文京シビックホール開館20周年にお届けする、クラシック・バレエの最高傑作「眠れる森の美女」。「公演前の鑑賞教室」で講師も務める川島京子氏がこの作品の見どころをご紹介します。

チャイコフスキー三大バレエの一つとして知られる『眠れる森の美女』は、1890年、マリインスキー劇場がロシア・バレエの威信をかけて上演した、巨匠マリウス・プティパ(※)の最高傑作です。ロシア帝国とロシア・バレエを盛り上げようと、音楽もそれまでの劇場付き作曲家ではなく大作曲家チャイコフスキーに依頼し、ルイ14世時代のフランス宮廷を舞台に莫大な予算をかけて豪華絢爛なバレエを作り上げました。そのため、初演から130年経った今でもこの作品は、劇場のこけら落としや重要な節目で上演されるお祝いのバレエ、華やかなバレエの代名詞となっています。

またこの作品は、『ラ・シルフィード』や『ジゼル』のような演劇的要素の強いフランス・ロマンティック・バレエから、より舞踊的なロシアのクラシック・バレエへ移行してゆく、その完成期の作品といわれ、物語の題材もそれまでのロマン主義的な重いストーリーではなく、誰もが知っているお伽噺を採用しています。

 

物語は、『眠り姫』『茨姫』として語り継がれたお伽噺をもとに、17世紀に出版されたシャルル・ペローの童話が原作となっていて、魔女カラボスの呪いで倒れたオーロラ姫が100年の眠りから覚め、王子と結ばれるという誰もが知っているストーリー。バレエではプロローグ付き全3幕の構成からなっています。

~プロローグ~ オーロラ姫の洗礼式

国王夫妻にオーロラ姫が誕生しました。今日はその盛大な洗礼式。祝福に訪れた善の妖精リラと、色とりどりの衣裳をきた妖精たちが踊るバリエーション(一人ひとりの踊りの見せ場)はプロローグの大きな見どころです。その幸せに包まれた場面から一転、勢いよく乗り込んでくるのは、洗礼式に招かれなかった魔女カラボス。

カラボスは「オーロラ姫が16歳になったら針に刺されて死ぬだろう」とおそろしい呪いをかけてゆきます。するとリラの精が歩み出て、「姫は死ぬのではなく100年の眠りにつくだけでしょう」とカラボスの呪いを弱めます。男性が演じる妖艶なカラボスは、迫力満点。プロローグ後半のハイライトシーンです。

~第一幕~ 魔女の呪い

オーロラ姫の16歳の祝宴。16歳になった初々しいオーロラ姫が花婿候補の王子たちからバラを一本一本とプレゼントされながら踊る「ローズ・アダージョ」は、その優雅で美しい踊りとチャイコフスキーの音楽とが相まって、この幕のもっとも美しい場面といわれる見どころです。

しかし、オーロラ姫は紛れ込んだ老婆から花束を受けると、その中に隠されていた針に刺され倒れて倒れてしまいます。そこにリラの精が現れ、オーロラ姫を王国の人々とともに100年の眠りにつかせます。

~第二幕~ オーロラ姫の幻

100年後。森で狩りをしていた王子のところにリラの精が現れ、オーロラ姫の幻影を見せます。美しい姫にすっかり夢中になった王子は、リラの精に導かれてオーロラ姫の眠る城に向かいます。城で待ち構えるカラボスを倒し、口づけによってオーロラ姫を100年の眠りから覚ますのでした。

~第三幕~ オーロラ姫と王子の結婚の祝宴

華やかに繰り広げられる王子とオーロラ姫の結婚の祝宴。青い鳥や長靴をはいた猫、赤ずきんと狼など、おとぎ話のオールスターズとでもいうべき、様々な童話から抜け出した主人公たちがお祝いに駆け付けます。次々に披露される踊りで見ごたえたっぷりの楽しい終幕となっています。

牧阿佐美バレヱ団の『眠れる森の美女』は、1982年英国ロイヤル・バレエの名教師テリー・ウエストモーランドが、プティパの原典を研究し細かな意図を汲んで演出を行った正統派の『眠り』といわれています。筋の運びもマイム(言葉を表現する身振り手振り)を多用して丁寧に描かれており、仕草の一つひとつはまるで観客に語り掛けてくるようです。

また、ウエストモーランド版は、美術から仕草までも徹底的に時代考証がなされているのが特徴で、この物語の100年の隔たりを、歩き方や礼儀作法、スカートのデザインから袖口の装飾に至るまで、時代の変遷が細やかに表現されているという徹底ぶりです。

 

美術を手掛けたのは、ロンドンを中心に数多くの舞台作品を手掛け、テレビや映画でも活躍した世界的なデザイナー、ロビン・フレーザー・ペイ。特に、豪華さと質感にこだわりぬいた衣裳は、日本のバレエ衣裳制作の第一人者である大井昌子との素晴らしいコラボレーションで実現したまさに美術品といえ、世界的にもこのバレエ団でしか見られないと言われるほどの高い評価を受けています。本物のシルクが放つ柔らかな光、細部まで施された緻密な装飾、舞台を彩る上品な色彩、それら衣装と重厚な舞台装置との調和が生み出す空間は、幕開きの瞬間から、観客を夢のような物語の世界に誘います。

『眠れる森の美女』は、その誕生から現在に至るまで、クラシック・バレエ作品の中でも「特別な作品」であり続け、いかなる妥協も許されてはいけない、いわば完成品。この作品の全幕を、帝政ロシア時代の初演のままに格調高く上演するのは並大抵のバレエ団ではできません。『眠れる森の美女』は牧阿佐美バレヱ団が長年大事に守り続けてきた財産であり、そして、最高の指導者の下で培われた正統的なクラシック技術が発揮されるにふさわしい作品といえるでしょう。

(文・川島京子(跡見学園女子大学准教授)、写真・鹿摩隆司、山廣康夫)

 

※マリウス・プティパ(1818年?~ 1910年)

帝政ロシアで活躍した振付家。「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」「白鳥の湖」のチャイコフスキー三大バレエのほか、レオン・ミンクスの音楽による「ドン・キホーテ」など多くのクラシック・バレエ作品を手掛ける。

※テリー・ウエストモーランド(~1985年)

英国ロイヤル・レエでソリストとして活躍の後、74年より常任スタッフ、教師に。世界各国のバレエ団で教師、振付家として多くの業績を残す。

 

※本ブログ記事は、文京アカデミーの情報紙2020年7月号「スクエア」「眠れる森の美女」作品解説に掲載された記事を許可を得て転載したものです。

 

牧阿佐美バレヱ団10月公演「眠れる森の美女」はチケット発売中です。

詳しくはWEBサイトから

https://www.ambt.jp/pf-the-sleeping-beauty2020/

 

「眠れる森の美女」鑑賞教室のお知らせ

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詳しくこちら

【ダンサーズブログ】10月公演「眠れる森の美女」鑑賞教室のお知らせ <事務局>

https://bit.ly/32KDOAt

 

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