クラシック・バレエの最高傑作「眠れる森の美女」。牧阿佐美バレヱ団の「眠れる森の美女」はその贅沢な衣装にも注目です。
「美術を手掛けたのは、ロンドンを中心に数多くの舞台作品を手掛け、テレビや映画でも活躍した世界的なデザイナー、ロビン・フレーザー・ペイ。特に、豪華さと質感にこだわりぬいた衣裳は、日本のバレエ衣裳制作の第一人者である大井昌子との素晴らしいコラボレーションで実現したまさに美術品といえ、世界的にもこのバレエ団でしか見られないと言われるほどの高い評価を受けています。本物のシルクが放つ柔らかな光、細部まで施された緻密な装飾、舞台を彩る上品な色彩、それら衣装と重厚な舞台装置との調和が生み出す空間は、幕開きの瞬間から、観客を夢のような物語の世界に誘います。~」
「眠れる森の美女」あらすじと見どころ解説 より
実は文京シビックホールで"『眠れる森の美女』衣裳展"が予定されていたのですが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、衣裳展は、開催中止となってしまいました。
とても残念ですが、また別な機会に直接衣装をご覧いただける機会を設けることができたら嬉しいです。
今回は、「眠れる森の美女」で登場する様々な衣装の中から、特に注目の(個性的な?)衣装をピックアップしてご紹介します。
王様や王妃様の贅沢な衣装はよくお写真でもピックアップしていますが、他にも注目すべき個性的な衣装がたくさん!
プロローグより カタラブット
プロローグから登場する、儀典長(宮廷行事の準備責任者)のカタラブット(Catalabutte) (写真右)。
招待客のリストを見ながら忙しそうにしています。というかリストを掲げて「仕切ってる」アピールをしています。
この後、招待されなかったカラボスが怒り心頭で乗り込んでくるのですが、何をかくそうカタラブットがカラボスを招待するのを忘れたために起こった出来事でした。
さてこのカタラブット、とっても立派なかつらに注目です。
巻き毛を背や胸に長く垂らし頭を高く盛り上げた大仰なスタイル。どこかで見たことがあるようなかつらですよね?そう、このスタイルのかつらで有名なのはこの人↓
ルイ14世 (フランス王)
画像は「ルイ14世の肖像」(リゴー画、1701年、ルーヴル美術館蔵)
演出・振付を行ったテリー・ウエストモーランドは1982年の初演プログラムで次のように語っています。
「~私は、プティパの制作ノートやチャイコフスキーのつけたマークを研究し、彼らの象徴的解釈をたどろうと試みてみた。今回の制作のデザイナーと共に私は、建築、景色、ドレス、礼儀作法や動きといったすべてのものによって、このバレエが、背景をフランスとし、ルイ14世の時代すなわち17世紀中頃に始まり、100年後の18世紀中頃で終わることを示したいと望んでいる。~」
(参照:テリー・ウエストモーランド「眠れる森の美女」覚え書き 牧阿佐美バレヱ団「眠れる森の美女」1982年10月公演プログラムより)
つまり、「眠れる森の美女」の始まりのシーンは17世紀中ごろになります。その当時の衣装が物語の後半、100年後にどのように変化するのか?もぜひ注目してみてくださいね♪
さて、カタラブットに話を戻すと...この時代、かつらを取られるのはとても屈辱的なことなのですが、カタラブットはカラボスに意地悪されてしまいます... 続きは公演でのお楽しみ。
カラボス
オーロラ姫の洗礼式に招待されず怒って乗り込んでくるカラボス。オーロラ姫に呪いをかける魔女です。
牧阿佐美バレヱ団の「眠れる森の美女」ではカラボス役を男性が演じます。男性だからこそ演じられる妖艶なカラボスは、迫力満点。プロローグ後半のハイライトシーンです。カラボスの衣装は特徴的なガウンに、大きく膨らんだスカート、金糸、サテン、ベルベット、刺繍などの装飾がふんだんに施された贅沢な衣装です。
従者のねずみ、カラボスの馬車など全体で統一感のあるデザインになっている点も注目して見てみてくださいね。
プロローグより 妖精
オーロラ姫の洗礼式に招待された妖精たち。エスコートする男性(カバリエ―ル)と一緒にオーロラ姫への贈り物を携えてやってきます。妖精の衣装の色と、オーロラ姫に授ける贈り物は次の通り。
みずいろ・・・水晶の泉の精(美しさ)
花模様(クリーム色)・・・魅惑の庭の精(強さ)
黄緑色・・・森の聖地の精(優雅さ)
ピンク・・・歌い鳥の精(雄弁)
きいろ・・・黄金のぶどうの木の精(活気)
むらさき・・・リラの精(知恵)
衣装の色のみならず、細部のデザインも妖精それぞれで異なります。細かいところまで作り込んである素晴らしい衣装です。
ちなみに、カバリエ―ル(写真↓)も妖精とお揃いの色の帯を腰に巻いていますよ。
第1幕より 宮廷の娘たち(花輪)
オーロラ姫16歳のお誕生日の祝宴の場面。花輪をもって踊るガーランド(または花のワルツ)と呼ばれる踊りです。「眠れる森の美女」といえば、この音楽を思い出す人も多い(!)とても有名な場面です。花輪の踊りというだけあってスカートの色は、みどり、ブルー、ピンク、オレンジの4色です。どれもすてきですよね。この場面は舞台がぱっと明るくなり、オーロラ姫のお誕生日をお祝いする明るく幸せな雰囲気に満ちています。
第1幕より 各国の王子
オーロラ姫の誕生日に招かれた各国の王子です。それぞれその国の特徴的な衣装を着て登場します。
誰がどこの国の王子様か、分かりますか?
フランスの王子:ブルーのコートに大きな帽子
スペインの王子:白の上着に闘牛士のような赤いケープ
インドの王子:エメラルドグリーンのコートに宝石の付いたターバン
ロシアの王子:オレンジのマントと毛皮の付いたロシア帽
有名なこちらの場面は「ローズアダージオ」といい、オーロラ姫が4人の王子からバラの花を渡されて求婚される踊りです。
高度な技術が必要なオーロラ姫の演技に目を奪われてしまいますが、ちょっと知っておくと面白い王子同士のいざこざがあるんです。
この物語のちょっと前の時代に戦争をしていたフランスとスペイン*。王子同士でも、ちょっとした仲たがいをしているんですよ。
フランス王子がスペイン王子の歩みを妨げてみたり、その逆もしかり。そんなところも見えてくると鑑賞の楽しみが広がるかも知れませんね。
*フランス・スペイン戦争 (1635年-1659年)
針で指を刺して痛がるオーロラ姫の周りで心配そうに見つめる王子たち↓
2幕より 王子と貴族たち
2幕の冒頭シーンで登場する王子と貴族たち。オーロラ姫が眠りについて100年後の世界、18世紀中頃の設定です。1幕のシーンと比べると全体的に貴族の衣装がスッキリしているのに気づくのではないでしょうか?スカートの形や袖の形が変わっています。特にスカートは全体的にボリュームのあるデザインから、背中側に膨らみのある後ろボリュームのデザインに変わっていますよ。
18世紀ヨーロッパといえば、市民革命と近代化の始まりの時代ですが、でもまだそれはもう少し先、18世紀後半のお話し... バレエのお話しの中では王子も貴族も優雅に過ごしているようです。
第3幕より おとぎ話の主人公
オーロラ姫とフロリモンド王子の結婚の祝宴に集まった宮廷の人々やおとぎ話の主人公たちをカタラブットが迎え入れます(ちなみに、宮廷の人々やカタラブットもオーロラ姫と一緒に100年眠ってました!カタラブットのあのかつらもデザインが変わっています!本番でチェックしてみてくださいね)。
金の精、銀の精、サファイアの精、ダイヤモンドの精と、ここまではお祝いにふさわしい宝石たちが登場するのですが、さらに有名なおとぎ話の主人公も登場します!
白猫と長靴をはいた猫、フロリン王女と青い鳥、赤ずきんと狼です!
祝宴を盛大にお祝いしますよ。
「~このバレエはまた、死に対する生の勝利、悪に勝つ善、闇に勝つ光をテーマとして扱っているとも言える。そして、若い娘の目覚めから成熟へ、枯れた、もったいぶった宮廷を、幸せに満ちた、踊りたくなるような宮廷へと変えていく若い生命力を表している。こうした理由からこのバレエは、夕刻の屋内の場面から始まり、若いオーロラ姫(オーロラ、すなわち、夜明け)が成長するにしたがって宮廷は明るさを増し、人々の動きも軽やかさを増して速くなり、そしてついにオーロラ姫の結婚の祝宴に至っては、場面は明るい日ざしのあふれる屋外(この時代は、屋外で宴-時には動物など、さまざまな扮装をした—が盛んに行われた時代なのである)となり、宮廷全体が実際に踊り出すのである。光が闇に打ち勝ったのである。~」
(参照:テリー・ウエストモーランド「眠れる森の美女」覚え書き 牧阿佐美バレヱ団「眠れる森の美女」1982年10月公演プログラムより)
写真:プロローグ 夕刻の屋内の場面
写真:第3幕 オーロラ姫の結婚の祝宴 明るい日ざしのあふれる屋外
衣装からみる「眠れる森の美女」、いかがでしたでしょうか?
まだまだ語り足りない衣装がたくさん!もっと知りたい!と思った方は是非SNSで本ブログをシェアして応援してください!
牧阿佐美バレヱ団10月公演「眠れる森の美女」はチケット発売中です。
詳しくはWEBサイトから
https://www.ambt.jp/pf-the-sleeping-beauty2020/
こちらもあわせてどうぞ↓
「眠れる森の美女」あらすじと見どころ解説 <事務局>